はじめに
セラミック治療により歯冠の形を改善することは可能ですが、歯根の位置に問題がある場合にはセラミック治療では改善ができません。今回ご紹介するのは、20年以上前にセラミック矯正を受けた患者さんに対して、マウスピース矯正を併用してセラミック治療のやり直しを行った症例です。
患者さんの初診時の状況
主訴と経緯
- 年齢・性別:50代・女性
- 主訴:見た目が気になる・歯茎が腫れる・よく噛めない
- 治療経緯:20年程前に上下前歯のセラミック矯正を受けた
50代女性の患者さんが当院にご来院されました。長年歯科治療への恐怖心があり、何年も歯医者に行けずにいらっしゃいましたが、「見た目が気になる」「歯茎が腫れる」「よく噛めていない」「悪い部分は全て治したい」といった複数のお悩みをお持ちでした。



歯科ドックに含まれている咀嚼機能検査を実施した結果、咀嚼能力がかなり低い値となっており、機能的な問題も確認されました。さらに健康診断で血糖値の上昇を指摘されており、歯の問題との関連性も懸念されていました。


過去の治療経験による後悔
患者さんは20代の頃に他院の審美歯科で上下前歯のセラミック治療(セラミック矯正)を受けられました。その際、上顎の前歯を2本抜歯し、前歯の神経も取る治療を行いました。当時は見た目がある程度改善されたことで満足したそうですが、今では歯を抜いたり神経を取ったりしたことを深く後悔されており、「今度はできる限り自分の歯を残したい」と強くお考えでした。
治療方針の決定
池田デンタルオフィス静岡では、根本的な問題解決を重視しています。本症例では以下の方針を立てました:
- 歯列不正の根本改善:セラミック治療で改善できるのは歯の形だけです。歯の位置に問題がある場合は矯正治療でしか解決できません。
- 精密根管治療・歯周治療による感染除去:できる限り長期的に自分の歯を残すため、口の中の細菌感染は取り除く必要があります。
- 機能性と審美性の両立:見た目だけでなくよく噛めることが大切です。しっかり噛めてキレイな状態の実現を目指します。

治療の手順と特徴
1. 基礎治療の徹底
まず既存の歯冠修復物を除去し、必要な歯には精密根管治療を実施しました。日本の保険治療における根管治療の成功率はわずか50%程度と言われています。当院では根管治療の成功率を上げるため、世界基準の機器・材料を必ず使用しています。:
- マイクロスコープ:歯の内部を20倍以上に拡大して確認
- ラバーダム:唾液や細菌の侵入を完全に防ぐゴム製カバー
- バイオセラミック:生体親和性と殺菌作用に優れた最新材料


並行して歯周病の治療も行いました。
被せ物を外した状態で、歯茎の腫れや下がりの原因となっている歯周病を徹底的に治療しました。
2. マウスピース矯正による歯列改善
仮歯の状態でマウスピース矯正を開始しました。上顎は以前のセラミック矯正で2歯抜歯されているので追加の抜歯はなし、下顎は使えない歯根(下顎前歯の破折歯、左下大臼歯の近心根)を抜歯したスペースを利用して矯正治療を行なっています(親知らずは抜歯しています)。成人の矯正では、見た目の理由からワイヤー矯正を避けられることが多く、マウスピース矯正を選択される方がほとんどです。
マウスピース矯正の特徴:
- 透明で目立たない
- 取り外し可能で食事や歯磨きが楽
- 段階的に歯を動かすため痛みが少ない
- 通常の生活への影響を最小限に


3. キレイで長持ちするセラミック治療
矯正治療完了後、仮歯を調整して機能性・審美性を確認。その後、適切な接着処理(防湿、サンドブラスト、セラミックプライマー)のもとでセラミックを装着しました。


治療結果
審美的改善
歯根の位置を矯正で改善してからセラミック治療を行ったことで、従来のセラミック治療では実現困難な自然で美しい仕上がりを達成しました。白い歯は希望されなかったのでホワイトニングはせず、天然歯の色調に合わせてセラミック歯を製作しています。

機能的改善
歯の移動により適切な咬合関係が実現され、咀嚼機能が劇的に改善されました。治療後の咀嚼機能検査では、治療前と比較して著しい改善が確認されています。

長期安定性の確保
- 歯の健康に影響する噛み合わせを改善したことで長期的に安定する可能性が高いです。
- 夜間のみマウスピース型のリテーナーを装着し、矯正の後戻りを防ぎます。



治療詳細
治療内容
- セラミック治療:15歯
- マウスピース矯正:インビザライン
- 感染の除去:精密根管治療、歯周治療など
治療期間
25ヶ月(通院頻度により変動します)
治療費
治療費総額:3,234,000円(税込)
まとめ
歯の位置を改善するには矯正治療をするしかありません。無理にセラミックだけで歯列不正を改善しようとすると歯茎の炎症などトラブルの原因になり長持ちしません。今回は抜かなければいけない歯があったので、矯正のために健康な歯を抜歯する必要はありませんでした。
- 歯の位置に問題がある場合には矯正でしか改善できない
- 保存不可能歯がある場合は健康な歯を抜歯せずに矯正できる可能性がある
歯の治療は、削ったり抜いたりと元に戻れない治療が多いです。治療前によく検討して後悔のない選択をしてください。
注意事項
- 治療結果には個人差があります
- 治療費の総額は歯の状態や希望により変動します
- 詳しい治療内容については歯科医師にご相談ください
この症例紹介が、同様の治療をお考えの患者様の参考になれば幸いです。