左右の奥歯が噛むと痛いということで、他院で何回か治療をしているそうですが改善せずに当院を受診した患者さんです。奥歯の痛みは何年も前からあるとのことでした。
噛み合わせに問題あり
前方に位置する歯は治療の跡がなくキレイな状態を保っていますが、奥歯はほとんどの歯が治療されています。噛み合わせを詳しく調べたところ、前歯の噛み合わせが浅いせいで奥歯に負担が掛かっていることがわかりました。正しい噛み合わせは、
①真っすぐ噛んだと時に奥歯がしっかり当たる
②前後や左右に顎を動かした時には、前歯が当たることで奥歯は当たらない
という状態です。左右に動かした時も奥歯が接触している状態でした。奥歯の痛みは過剰な力が加わったことによる左下の歯根破折と、左右奥歯の知覚過敏が原因でした。
右下の親知らずにも問題がありました。右下の親知らずが上に出っ張っていて、上の奥歯に引っかかるため顎の動きが制限されている状態でした。
そして、数年前に他院で治療した左下のインプラントは上の歯と全く接触していません。この状態ではインプラントに噛む力が伝わらないのでインプラント治療の意味がありません。
歯が割れた奥歯は親知らずの移植で対応
左下の金歯は歯の根が割れていたため残念ながら抜歯の対象となります。抜歯した後の歯を入れる治療としてインプラント治療も検討しましたが、患者さんと相談したところ今回は歯の移植で対応することになりました。
右下の親知らずは上に飛び出した状態になっており、噛み合わせに悪い影響を与えているので、この親知らずを抜歯し、左下の割れた金歯の部分に移植する計画を立てました。
金歯を抜歯した部分に親知らずを移植しました。歯の移植の治療時間は1時間程度で、手順は以下の通りです。
①左下の金歯を抜歯する
②右下の親知らずを抜歯する
③親知らずを左下の歯を抜いた穴に合わせる
④糸で固定する
2週間後、表面的には歯茎が治り、親知らずが歯茎とくっついた状態です。移植した歯根の周囲に骨ができるには数ヶ月かかります。
移植した歯は神経が死んでしまうので根管治療が必要になります。ラバーダムを使用し、細菌が侵入しない環境で根管治療を行います。
根管治療が終わってからしばらくは仮歯で生活してもらいます。問題なければ型取りをして被せ物を製作します。
被せ物が装着され、天然歯と同様に噛むことができます。
インプラントの再製作を含め全体の噛み合わせを作る
左下のインプラントは上の歯と接触していなかったため、適切に機能させるには治療をやり直すしかありません。今回は顎骨内にあるインプラントの土台の部分は問題なかったので、上物だけ作り替えることにしました。
インプラントは種類によって上物を固定するネジの形状が異なります。患者さんはインプラントの種類を把握していないことも多いので、レントゲン写真からインプラントの形状を判断して使用されたインプラントを特定する必要があります。
今回は無事インプラントの種類を特定できたので、部品を取り寄せ、上物だけ作り替えることができました。
根管治療が必要な歯には根管治療を行い、全ての被せ物をやり直し、適切な噛み合わせを作っています。前歯の削れた部分にはレジンの材料を盛り足すことで、前歯の噛み合わせを作っています。
この患者さんは夜間の食いしばりの自覚があったので、歯を保護するナイトガードと、噛む力を弱めるボトックスも行っています。