歯科恐怖症で15年間歯医者に行けなかった|歯がボロボロになった60代前半の患者さんの全顎治療

治療前
治療後
治療内容虫歯治療、根管治療、歯牙移植(右上6→左上5)、仮歯による咬合調整、セラミック20本による全顎治療、静脈内鎮静法
治療期間・回数約18か月・30回
費用3,050,000円(税込)

歯科治療への恐怖心から約15年間歯科医院を受診できず、差し歯や被せ物が外れてほとんど噛めない状態で来院された患者さんです。

虫歯や感染の治療、歯牙移植、仮歯による噛み合わせの確認を経て、セラミック20本による全顎的な治療を行いました。

現在は見た目と噛み合わせの回復を目指した治療を終え、定期的なメンテナンスへ移行しました。


治療内容:
虫歯治療、根管治療、歯牙移植(右上6→左上5)、仮歯による咬合調整、セラミック20本による全顎治療(短縮歯列:ショートアーチ)、静脈内鎮静法

治療期間・回数:
2024年5月〜2025年11月(約18か月・30回)

費用:
3,050,000円(税込)

主なリスク・副作用:
歯の切削が必要になります。歯牙移植した歯が生着しない場合があります。治療後に噛み合わせの調整が必要になる場合があります。静脈内鎮静法に伴う偶発症が生じる可能性があります。


1. ご相談内容

来院されたのは60代前半の患者さんです。

歯科医院を受診するのは約15年ぶりでした。

もともと歯科治療への強い恐怖心があり、治療中の痛みや口の中に水が溜まる感覚が苦手で、少しずつ歯科医院から足が遠のいてしまったそうです。

その間に差し歯や被せ物が外れ、お口の状態は徐々に悪化していきました。

差し歯が外れてからは人前で話すことが苦痛になり、奥歯の被せ物も脱落したことで硬いものがほとんど噛めなくなっていました。

患者様はご自身のお口の状態について、「噛めない」とお話しくださいました。

一方で、歯がボロボロになってしまったことや、長い間歯科医院に行けなかったことを気にされており、受診そのものに大きな不安を抱えておられました。

当院ホームページの「歯がボロボロでお悩みの方へ」といった内容をご覧になり、勇気を出してご相談くださいました。

初診時のカウンセリング後には、「肩の荷が降りました」と話されていたことが印象に残っています。


2. 初診時の状態と診断

お口の中を確認すると、過去に治療された歯の多くが虫歯の再発によって失われていました。

差し歯や被せ物の脱落が複数箇所に認められ、唯一噛めていた左上のブリッジ(複数の歯をつないだ被せ物)にも動揺がみられました。

安定して噛み合う歯はほとんどなく、食事にも大きな支障が出ている状態でした。

診断は重度う蝕と歯牙欠損による咀嚼障害です。

これは、虫歯や歯の欠損が進行し、十分に噛むことが難しくなっている状態を指します。

治療前正面:奥歯がないので噛み合わせが深くなり下の前歯が見えなくなっています
治療前上顎:差し歯がとれ歯根だけ残っている歯があります
治療前下顎:右側は全く噛むことができない状態です

3. 治療方針と選択肢

初回のカウンセリングでは、お口の状態だけでなく、歯科治療への不安についても十分にお話を伺いました。

患者様が最も心配されていたのは、歯科恐怖症がある中で本当に治療を続けられるのかということでした。

今回の治療目標は、見た目を整えることだけではありません。

しっかり噛める状態を取り戻し、今後も長く維持できる口腔環境を再建することを目指しました。

過去に入れ歯を作ったことがあるそうですが、違和感が強く使えなかったそうです。

インプラント治療に対しては恐怖心もあり希望されなかったため、残せる歯を最大限活用しながら、使用していない右上6番の歯を左上5番へ移植する治療計画を立案しました。

むし歯が深い左上3番は外科的挺出により使える状態にします。

左右とも歯数が通常よりも少ない短縮歯列(ショートアーチ)で噛み合わせを確保します。

治療前パノラマ:右上(向かって左側)の奥歯を反対側へ移植しました

4. 実施した治療内容

治療は以下の流れで進めました。

  1. 虫歯治療・根管治療による感染源の除去
  2. 右上6番を左上5番へ移植
  3. 仮歯による噛み合わせの調整
  4. セラミック20本による全顎的な補綴治療

治療の大きな山場となったのは、歯科恐怖症への対応でした。

患者様は長時間の治療や、口の中に水が溜まる感覚に強い苦手意識がありました。

そのため、無理に治療を進めるのではなく、体調や不安に配慮しながら一歩ずつ進めていきました。

また、上下の歯を削る処置と型取りの際には、**静脈内鎮静法(点滴によってリラックスした状態で治療を受ける方法)**を2回併用しました。

さらに、最終的なセラミックを製作する前には、**仮歯(最終形を作る前の確認用の歯)**の期間を設け、噛み合わせや清掃性を確認しながら治療を進めています。

銀歯の状態:一見問題なさそうです
銀歯を外した状態:中はむし歯になり汚染された状態です
移植後の状態:左上5番への移植と左上3番の外科的挺出を同時に行いました
仮歯の状態:仮歯で見た目や噛み合わせに問題がないか確認します

5. 結果と経過

治療を重ねるにつれて噛み合わせが安定し、見た目と機能の両面から口腔環境の再建を行うことができました。

この症例では、お口の状態の改善だけでなく、歯科治療への強い不安に配慮しながら治療を継続できたことも重要なポイントでした。

15年間歯科医院を受診できなかった患者様でしたが、一つひとつ段階を踏みながら治療を進めることで、全顎的な治療を完了することができました。

治療後の経過や感じ方には個人差がありますが、現在も定期的なメンテナンスを継続しながら経過観察を行っています。

治療後正面:見た目のキレイなセラミック歯が入っています
治療後上顎:歯の移植によりインプラントなしで噛み合わせを確保しました
治療後下顎:通常よりも歯数の少ない短縮歯列で治療を終えています

6. 術後の注意点・メンテナンス

全顎的な治療を行った後は、治療結果を長く維持するためのメンテナンスが重要です。

定期的な検診で虫歯や歯周病の再発がないか確認し、噛み合わせの変化や移植した歯の状態も継続的にチェックしていきます。

また、セラミックや移植した歯を長く良好な状態で維持するためには、毎日のセルフケアと定期的な専門的メンテナンスの継続が大切です。